第133話 合わない二人(2017年12月)

その人は経営支援、つまりはコンサルタントで飯を食ってるらしい。
ある呑み会で席が隣になり、間を持たせるため無理矢理話しかけた。
話せば話すほど嫌な奴だと思った。横文字連発で経営が何たるかを語り、机上の空論を流暢に披露、人の理屈をバカにした。
向こうも私の事を超絶嫌な奴だと思ったらしい。うん。嫌な奴を目指した。難しい横文字が出ると「ほら、また難解横文字で人を誤魔化そうとしてるー」って突っ込み、机上の空論には「それは貴方の言葉じゃなく他人の言葉だ」って話の腰を折った。
「君はおかしい!言ってる事がメチャクチャだ!」
「余計なお世話だ!生物多様性の範疇だ!」
酒が入れば入るほど喧嘩腰になった。
「これを知ってると知らないじゃ経営に大きな違いが出るんだよ!俺は親切で言ってる!少しは話を聞け!」
「うるさい!余計なお世話だ!事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きてるんだ!」
「織田裕二を借りるな!」
「あんたも本の引用ばかりじゃないか!」
もはや初対面の気分は失せた。これ以上は喧嘩になると思った。向こうもそう思ったらしい。互いに深呼吸した。
「不毛だ、やめよう」
「うん、もっともだ」
私もコンサルも酒は美味しく呑みたい。考えが合わない事が分かったら合わない部分に触れなきゃいい。
周りが心配し「席替えしよう」と提案した。が、十年以上一人身の経営者は絶対的に天邪鬼だ。私もコンサルもそれだけは筋金入りで、周りが心配すればするほど動く事を拒否した。
「こう見えて楽しくやってます」
「はい、楽しく呑んでます」
互いに「こん畜生」と思いつつ仕事の話は触れぬようバカ話で呑み続けた。するとコンサル、さすがコンサルだけあって話題が豊富だった。引用をやめたら急に話が面白くなった。なぜ、これだけ話力があるのに人の理屈を引っ張ってくるのだろう。不思議だった。
向こうも不思議に思ったそう。
「作業着野郎、ちゃんと話が聞けるじゃないか」
会は二時間続いた。二時間ずっとコンサルと一対一で話した。
一本締めで会場を出た後、別れ際はいいだろうと思って触れちゃならぬところに触れた。
「あんた屁理屈言わなきゃいい奴なのに」
「何?それはこっちのセリフだ!君は話が聞けりゃマシなのに」
合わない奴の言う事は合わない点に触れなきゃ意外と楽しい事が分かった。価値観が全く違うから話の節々が常に斬新で飽きっぽいのに飽きなかった。
「意外だ、今夜は発見だ」
悔しいがインテリコンサルに教えられてしまった。
店を出た。
「おいコンサル野郎、次行くか」
「おお作業着野郎、行こうじゃないか」
名刺交換をしないこういう呑み会もたまにはいい。一晩一緒にいて住所氏名年齢ぜんぶ知らない。
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