業界の技術的バリアフリーを目指す!
【お悩み解決事例集】
【事例:特注の菓子型】



「会社のキャラクターを考えた! これを食品にして売りたい!」
ある日、菓子職人のBさんはそう考えました。が、モノをつくるというのが数値化されてしまった昨今、ぼんやりしたモノをカタチにするというのは職人探しの連続で、かなりの根気が必要です。根気があっても作れない可能性は拭えず、Bさんは疲れ果ててしまいました。
Bさんは大田区、東大阪、燕・三条、色んなところを当たって業者を探しました。が、適当なところが見付からず、大手の商社に見積を依頼し、1000万円という豪快な回答を得たそうです。
Bさんは知り合いの紹介で弊社に来られました。遠方より遥々お越し頂き、話を聞き、色々調べ、1000万という大手の見積に納得がいきました。細かく説明しました。依頼というのはボンヤリしていればしているほど、受け手は安全な方へ安全な方へ流れます。安全はお金ですから、当然ボンヤリは値を吊り上げていきます。
まず大きさが問題でした。単にキャラクターと言っても人形焼みたいなものもあれば、巨大なものもあります。Bさんが求めていたものは全長30センチ、超巨大なそれで、鋳物の型でそれを作るとなれば大掛かりな設備と膨大な熱量が要ります。型の重さも100キロを優に超え、それを動かすための重厚なカラクリも必要になります。
Bさんは大きなガス窯を持っていました。しきりにコストダウンを言われておりましたので、まずは熱源として既存のガス窯を利用する事に決めました。少々手はかかりますが、薄板で構成された巨大な型に材料を流し込み、ガス釜で焼いた後、型を割って中身を出す。そういう手順に決めました。
薄板構成による菓子型の製作は精度も要らず技術的には問題ないと思っていましたが、各工程を見ていると職人技の連続で恐ろしい手間がかかりました。まず菓子型を作るための親型が8個も必要でした。詳細は割愛しますが、8個の親型を駆使し、プレス職人が微妙な調整を加えながら押してゆくのです。進み過ぎると破れ、チンタラやってるとシャープなラインが出ません。100%職人技でした。
ちなみにこの菓子型、80個注文を受け、かなり安い値段で出しました。安くできたのは打ち合わせの段階でボンヤリを潰したからです。まずキャラクターの粘土造形を客であるBさんにお願いしました。キャラクター造形というのは好みや思い入れがあって、なかなか決まらず多くの時間を要します。これをお客様がやるというのは大いなるコストダウンに繋がります。
それから提出してもらった粘土造形に後工程(型製作、プレス)の技術的注文を加え、造形を修正し、承認を受け、作業開始という流れです。複雑な工程を経て、約二ヵ月後、喜びの納品に至りました。

【ご説明】
特殊な技術というのは全国的に萎みつつあります。萎んでいるという事は需要がないという事ですが、細々でも需要がある以上、日本全国探してみたいと思っています。こういう作業は一人身の強みであり、弱みであり、面白さだと思っています。お見積を提出するまでに多大な時間と労力を必要としますので【良識ある指値】を提示頂けますとありがたいです。


【事例:樹脂部品の成型化】



ある食品関係の工場で変な部品を見付けました。
「これ何ですか?」
問うたところ、出荷時、箱の中で製品がガタつかぬようにするための固定具という事でした。見るとアクリル製でレーザーカットの跡があり、接着部分もありました。
「これ使い捨てでしょ?」
「そうや」
「切り出しで作ってるんじゃ高いでしょ?」
「安くはないな」
「成型品にしたらどうですか?」
「高いイメージがあんねん」
聞けばこのアクリル部品、月に1000個使っているらしく、単価は100円という事でした。
「高いっすね、成型品で見積もりますよ」
現物から図面を起こし、10000個製作の見積を出し、即日注文を受けました。
「安いやないか! はよ言わんかい!」
「すんません」
型代が70万ほどかかりましたが、単価は20円になりました。差額は1個80円、9ヶ月で元(型代)が取れ、以後オッサンはハッピーになりました。

【ご説明】
数のある部品は成型品が断然オトクです。成型は初期投資が凄まじいというイメージから小さな工場では二の足を踏んでおられるようですが、露骨に効果が出ます。商品の寿命が短くなっているので何とも言えませんが、12ヶ月以内で型代が償却できるなら、加工部品は即刻捨てるべきです。
具体的な価格はこちらのページをご覧下さい。


【事例:農機具修理】



「こっば直してはいよ」
と、農機具を持ってこられるお客さんがいらっしゃいますが基本的にお断りしています。なぜなら餅は餅屋で、それ専門の修理屋さんの方が絶対に安く、良い仕事をされるからです。ただし、
「これがこぎゃんなったらよかとばってん」
と、いう設計を伴う改造に関しては断らないようにしています。設計はセンスであり、経験であり、閃きであり、もしかすると基本構造を熟知している修理屋さんより良いアイデアが出るかもしれないからです。
先日、初めて農機具の修理をしました。生産中止になった古い農機具で、修理屋さんにもメーカーにも買い替えをすすめられたそうです。部品が手に入らないという事は図面から部品を作らねばならないという事で、それだけの金を払わせるくらいなら買い替えをすすめた方がいいという受け手の判断だと思います。
弊社でこの仕事を請ける場合、不良箇所の特定、図面作成、加工という込み入った段取りになります。前二つの作業がありますので、メーカーや修理屋さんに必ず負けるでしょう。メーカーに至っては部品の在庫がなくとも図面があると思いますので競争になりません。
農機具を運んで頂いたのに申し訳ないのですが、その理屈を説明し、
「高くなると思います。それでも弊社でやりますか?」
嫌味ではなく、真心で問うたところ「壊れている場所の想像はつく」という農家さんの回答を得ました。
「ならば漫画絵でも書きならんですか、部品ば作るだけなら安くやれますよ」
そう言って農機具を持ち帰って頂きました。
数日後、農家さんはチラシの裏に漫画絵を書いて持ってこられました。
「これがこぎゃんなっとるけん、こぎゃんなったらよかはずですたい」
話を聞きながら私は「なるほど」と思いました。やはり使っておられる農家さんは機械が持つ当たり前の感触をよく分かっておられます。感触が分かっていれば機械は目に見えますので不良箇所の特定が早い。農家さんは熱心に調査結果を語られました。
「ぎゃんしよる時にぎゃんなったけん、たぶん、ここがぎゃんなっとるとたい」
「そぎゃんですか」
寸法線や図枠は要らないのです。この漫画絵があるだけで不良箇所の特定と図面作成の手番は消えたようなもので、先が見えてきました。ここまでいけば弊社も修理屋さんと同じ位置に立ちます。見積を提出し、念のため相見積も取って頂きました。その結果、晴れて注文となりました。
その後の展開になりますが、農家さんは自分の機械をじっくり見たのが初めてだったそうです。これをキッカケに農機具にも愛着が湧いてきたらしく、色々と自ら手を加えられるようになりました。
「今度はボール盤ば買わにゃいかん! 機械ばいじくっとも金んいっですなぁ!」
確かに農家さんが言われるように「自らやる」というのは道具と場所がいるので丸投げより金がいるかもしれません。ですが、愛された機械は間違いなく長持ちします。そして何より、その道具を使った作業が楽しくなります。
日本の農業が衰退した原因の一つは「モノに人が食われたから」ではないでしょうか。今回の件でそう思いました。モノは使うべきです。モノに使われるべきではなく、少なくとも使いこなすべき立場として「なんも分からん」だけは言うちゃいかんと思います。
今回の農家さんは悪戦苦闘しながらも古い農機具をエイヤと押さえ付け、今日も畑に立っています。

【ご説明】
現代農業という雑誌に弊社の記事を載せて以来、農業関係の相談を何度も頂いております。相談を頂くたびに色んな事を調べておりますが、この業界の中間マージンは確かに農家さんが叫ばれるように割高です。ですが、農家さんが発する依頼のカタチも丸投げが多く、丸投げゆえにマージンの高騰を招いているというのが現状だと思います。前述しましたように、機械に少しでも目を向ける事で色んな事が変わります。試してみて下さい。

*この文章は修正を加え、現代農業(2009年11月号)に掲載しました。