第110話 アルミフレームストラップ(2015年8月) 呑み会に呼ばれた。持ち寄りらしい。手土産は何にしよう。みんなに喜ばれ、且つカラクリ屋っぽいものがいい。 土産はあなどれない。忘れたくても忘れられない出来事がある。 自営業の会という呑み会を開いた。ヤマメ屋はヤマメを使った惣菜を持って来た。パン屋は自慢のパンを持って来た。牛丼屋は高級肉の端切れで主婦のハートをがっちりキャッチ。みんな凄い喜んで、それぞれの色々を、それぞれに称え合った。僕は酒を準備した。誰からも触れてもらえず、その存在すら気付いてもらえなかった。 これじゃいけない。僕は何のために存在し、何のために自営業をやっているのだろう。こんな会社は生きてちゃいけない。ちゃんと存在し、そこにいる事を認めて貰える会社にならんといかん。 みんなの土産を思い出し、いい土産について本気で考えた。 いい土産の第一ポイントはスッと受け取れる軽さだろう。ヤマメなら小さいの、パン屋なら売れ残り、農家なら規格外、みんなそう言って持って来た。土産のために全力で身銭を切りました、本気ですよというスタイルは重い。間違いなく敬遠される。 カラクリ屋の仕事でコンスタントに出る端材はないか。 「あった!」 アルミフレームの切れ端。 これは必ず出る。もったいないので箱に入れて保管しているけれど、100ミリ以下の短いものは大抵倉庫整理で捨てられる。 この端切れは美しい。高級感もある。土産に最適ではないか。 もう一つ、よい土産には気持ちと手間が添えられなければならない。ヤマメもパンも酒の肴となりうる熱い一手間が添えられていて、その話が場を盛り上げた。 僕も土産について語りたい。語りどころが欲しい。いくら綺麗なフレームと言っても端材をあげるじゃつまらない。 「ゴミかよ!」 突っ込まれる可能性もある。 以前、農家さんが規格外の芋を持って来た。規格外だけれど専用の室で寝かしたやつだから味は最高と言っていた。その感じが欲しい。土産に関する小話が一つ二つ欲しい。端材だけれど手はかかってる。品質も最高。そういう話がしたい。 手をかけた。 端材ゆえ切断面が粗かった。フライスで仕上げた。 更に手をかけた。 切断面にはバリというトンガリがあって、それが手を傷付けるかもしれない。この対策として外周にヤスリをかける。これが結構面倒臭い。こういう形状は機械でやれないから特に面倒で、その点、土産に適してる感じがした。 何だかんだで1時間弱費やした。これにて物語が付加された。 この状態で渡そうと思った。使い道はよく分からぬが、置き物として活用してもらえないか。 「さて、どうしよう?」 考えているところに嫁がやってきた。おもむろに作業場の掃除を始めた。ぼんやり眺めていると、仕上げたフレームをゴミ箱に捨てた。 「こ奴め!」と思った。が、即座に反省した。 「そうか、知らぬ者からすればこれはゴミ、フライスとヤスリの手間も分かり辛い、説明すれば分かるけど、言い換えりゃ説明しなきゃ分からない」 嫁のためらいなき捨てっぷりに真実を見た。 「このフレームをゴミからモノへ進化されるにはどうしたらいい?」 置き物は最早ゴミらしい。このフレームに用途を与え、置き物から脱皮させねばならない。 「常套手段はないか?」 馴染みの雑貨屋にそれとなく聞いた。あるらしい。置き物はみんなコレに替わったそう。 「なるほど!ストラップ!」 北海道の木彫りの熊も東北のコケシもみんなストラップになったそう。小さくなってヒモを付ける事でゴミはゴミだけど捨てられないゴミになり、旅の土産になった。 「よし!ストラップぽくしよう!」 が、安易なストラップ化はよくない。いい土産の第三条件は確かな品質。これがなければ第一条件の軽さ、第二条件の手間をクリアしたとしても全く心に響かない。 ヒモはいけない。安っぽい。カラクリ研究所はそんな安っぽいモノは作らない。過剰な剛性で安心を売らねばならぬ。 M8のアイボルトを用意した。安全荷重80キロ。僕がぶら下がってもネジは抜けない。まさに超ド級の安心感。 「よし!」 フレーム中央にタップを切った。 これも手間。土産話が更に増えた。 それからホームセンターでアイボルトを買った。1個120円。いい具合にカネもかかった。 フレームにアイボルトを捻じ込んだ。 ちゃんとしてる感も出したかった。緩み止めにスプリングワッシャと平ワッシャを噛ました。 完成した。 世の中に、これほど無骨で重厚なストラップがあるだろうか。欲しい。男の子なら「3つ欲しい」と言ってしまうに違いない。 とりあえず6個作った。宴会は僕を入れて7人。1人1個の算段。少な過ぎて文句を言われるかもしれない。が、いい土産はちょっと足りないぐらいがいい。「次も頼むよぉ」って言われるぐらいが丁度いい。 で、呑み会当日。 手作りストラップは紙袋に入れて持ってった。こういうモノは見えちゃいけない。頃合を見て、いいタイミングで出したいと思った。 いつもより人の土産が気になった。みんなレベルが高かった。アレもコレも美味かった。アレもコレも楽しかった。大いに盛り上がった。 「肴になるなぁ」 やっぱ土産はモノだけじゃなく土産話と一つになって「いい土産」になるらしい。いい感じのプレッシャーを受け、いい感じに酔った。 宴もたけなわ、僕はまだストラップを出していなかった。タイミングを窺っていると、参加者の一人が僕の袋に気付いた。 「ねぇカラクリさん、それ何?」 「これ?ああ、これね、これ土産」 出すタイミングを得た。斜に構えた僕はちょっとカッコ付けた。みんなコッチを見た。心臓が大きく一つドーンと鳴った。数秒後、この会場もドーンとなるだろう。ドーンとなるに違いない。人数分用意したけれど「2個欲しい」って言われたら足りないぞ。 袋から手作りストラップを出した。盛り上がっていた人に心の中で謝った。 「ごめん、今日の会話、ドーンてみんな飛んじゃうかもしれない」 ストラップがテーブルの上に乗った。 「さあ、どうだ?」 シーンとなった。 話は一切弾まなかった。誰も触れてくれなかった。ストラップは袋に戻され会場隅に追いやられた。 呑み会は終わった。残った食材(土産)は皆の合意で取り分けられ、各家庭の土産となった。僕の手作りストラップは袋から出る事なく、ただひたすら引きこもった。帰り際、皆に渡そうか真剣に悩んだ。が、ストラップが駄々をこねた。 「これ以上は勘弁して下さい!出さんで!苦しめんで!僕を忘れて!」 ストラップは誰の記憶にも残らなかった。数秒だけ光を浴び、何も語らず何も与えず袋に戻り、僕と一緒に帰った。 あれから数ヶ月。僕も土産も苦しんだ。が、忘れた。忘れた頃にストラップの紙袋を見付けた。 「このまま消えてしまうにはあまりに惜しい!悲し過ぎる!」 引きこもりの彼を袋から出した。写真を撮った。勇気を出して思い出した。 「あの日の僕はこういう事を考えていたのです」 嗚呼恥ずかしや赤裸々告白。この書きものはそういう意図で書いた。 あの日の6人には読んで欲しくない。でも、ちょっとだけ読んで欲しい。傷口に塩を塗る矛盾は人間の妙かもしれず、自分自身よく分からぬが、兎にも角にも書いてしまった。 悲しい出来事は忘れた方がいい。が、忘れず時間が経つと、ちょっぴり笑え、また泣ける。 「このストラップどうしよう?」 「捨てない!僕は絶対捨てない!」 自問自答の末、ヤフーショッピングで売る事にした。5年10年売り続けたら誰か間違って買うかもしれない。 もう土産はこりごり。カラクリ屋は会費制の呑み会がいい。 |
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【アルミフレームストラップの詳細】 こんな感じです。40〜100mmの端材を活用してます。 こんな感じです。重いです。ハッキリ言って邪魔です。 欲しいという奇特な人がいたら下をご覧下さい。 買わなくていいです。ぼんやり眺めて下さい。 http://store.shopping.yahoo.co.jp/asokara/ |
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