サーボモーターで扇風機を作った |
2014年8月6日。扇風機が壊れた。 バラしてみるとモーターが焼けていた。軸受がきつかった。軸受がやられた後、モーターが焼けてしまったらしい。 長年連れ添ったモノなので修理をしたいと思ったが軸受の交換とモーターの巻き替え費用を想像するに買った方が圧倒的に安かった。 娘(9)を呼んだ。自由研究に困っていたので壊れた扇風機をあげた。 「これを組み立てたら凄くいい勉強になる」 手回し発電機(手作り)も与え、発電機は回すと電気が起こる、扇風機は電気を貰って羽根が回る、 「このアベコベが自由研究に最高」 何度も何度も説明した。娘も熱心に話を聞いた。 (さあ、どんな自由研究になるだろう?) 父親として凄く気分が良かった。軽い足取りで場を離れた。娘もすぐいなくなった。何か調べものでもしているのかと部屋を覗いてみた。漫画を読んでいた。 「自由研究やめたんか?」 「ああ、あれ・・・、もう飽きた・・・」 娘は20秒で飽きた。扇風機の残骸は放置された。 私は仕事を続けた。その日は機械の組み立てをしていた。 作業場の室温は34度。エアコンはなかった。窓を全開にしていたが無風で湿度も高く、作業着がビショビショになった。 「無理ー!」 私は保管棚に走った。手頃なモーターがあるだろうと思った。扇風機は壊れても羽根は壊れていなかった。モーターに羽根を付けたら扇風機であった。 あいにく保管棚にはギアモーターしかなかった。ギアモーターじゃスピードが足りなかった。速いモーターはないか。中古のサーボモーターを発見した。 サーボモーターというのは位置決め用のモーターで、モーターのお尻にエンコーダというのを積んでいる。このエンコーダというのが速度や位置の情報を出し、サーボパックというのがその情報を元に出力を制御する。簡単に言うと凄いモーターで、モーター界の頂に立つ高級品であった。 サーボモーターを回るだけの扇風機に使うのはハッキリ言ってもったいない。が、もったいないゆえリッチな風が吹くだろう。世の中にセレブな人は多かれど、サーボモーター扇風機を使っている人はいない。 「それはなぜか?」 「ムダだから!」 サーボパックは優秀な頭脳。その頭脳はエンコーダの情報を解析し、最適な出力をモーターに与える。ループ制御とかフィードバック制御とかPID制御とか、私もよく分かってないが、クルクル回る高等な仕組で回転を制御する。 「何を制御する?」 「扇風機!」 「えっ!扇風機?」 爽快だった。日本が世界に誇るスーパーコンピューター「京」でソリティアをやるようなもので、実に気分が良かった。 仕事を放り投げ、扇風機作りを始めた。 端材を集めた。穴だらけの板金にキャスターを付けた。土台なのに板厚が薄かった。モーターもペランペランのアルミ板に引っ付けた。引っ付く部材は高級なのに引っ付けられる構造材が徹底的に貧弱で凄く笑えた。 「いるよね、こういう人?」 扇風機の名前を「インテリ野郎」に決めた。バカのひがみをネーミングに織り込んだ。 回してみた。回った。が、回るだけではいけなかった。サーボモーターの性能をフルに発揮する必要があった。 サーボモーターはパラメータを調整する事でその性能をギリギリまで高める事ができた。その作業をチューニングといい、適度な値を探してやる必要があった。 ゲインというマニアックな数字をチョロチョロいじった。この数値はサーボパック(頭脳)が求める目標値とモーターが出す現在地との差を修正する熱量で、ゲインが高いほど神経質で熱血漢。上げ過ぎると大いに震えた。 「修正だ!」 「やべっ!行き過ぎ!」 「逆に修正!」 「また行き過ぎー!」 こういう感じになった。逆に低すぎると差を受け流すのでダラッとなった。 扇風機は機械だけれど、これは人間みたいで楽しかった。今回のインテリ野郎扇風機は神経質なインテリという設定なのでプルプル震えるぐらいまでゲインを上げた。 モーターは指令に対し寸分の狂いもなく回った。500と言ったら500、501や499は許さなかった。その細かさは時代の申し子。融通の利かないマジメちゃんであった。 作っている最中、お客さんと嫁が来た。 「何作ってるの?」 「サーボモーター扇風機!どう?」 誇らしげに見せた。が、サーボモーターを知らぬ嫁は苦笑した。 「いまどき扇風機なんて千円ちょっとで買えるでしょ!その部品幾らすんの?」 さすがに十万円とは言えなかった。笑って誤魔化し、奥へ隠した。 嫁がいなくなって徐々に回転数を上げた。300、600、900、1200、300ピッチで徐々に上げ、1500あたりで音が変になった。感覚として、今までの扇風機「強」が1000回転ぐらいだろう。1500は風量も凄いが音も凄かった。風切音が高かった。聞き様によってはブルースリーの怪鳥音に聴こえた。 「ショォァアー!」 ビデオに撮りつつ実験を勧めた。 (次の1800はどういう風が吹くだろう?) モーターを少し回し、ビデオのアングルを決め、それから本番を撮った。300から1500までその流れで撮ってきた。で、次の1800回転リハーサル、スイッチを押した瞬間、実験が終了した。 羽根が飛んだ。飛んだ羽根は作業場で暴れ、色んなモノを吹っ飛ばした。ネジ棚が倒れた。数千本のネジが飛び散った。2.0〜13.0mmまで0.1mm刻みで並んだ自慢のドリル立ても落っこちた。LED電球にも直撃した。割れた。一瞬にして作業場が修羅場と化した。 私は動けなかった。動けないくせに心臓だけはバクバク鳴った。びびった。少しチビった。あの羽根が当たっていたら死んでいたかもしれない。脳味噌が飛び散っていたかも。 リハーサルゆえカメラを回してなかった。あれが撮れてたら凄い映像になっていたと思うが、一つ間違えばシャレにならんかっただけに、まずは命があって良かった。 インテリ野郎扇風機のインテリっぽい爆発力はハンパじゃなかった。静かに震えるストレス世代の応答性は凄まじかった。樹脂製の羽根では耐えられなかった。加減速の設定をしていないから0回転から1800回転まで最短の時間で達す。車に例えるなら急発進。羽根が飛ぶのは当たり前。当然の結末であった。 ちなみに・・・。 今回の実験による損害は数万円で済んだ。それよりも扇風機をバラし、作り、片付けた時間を加味すると、胃が痛くなるほど悲しかった。 結局、新しい扇風機を買った。嫁が近くのホームセンターから1800円で買ってきた。 1800円扇風機は普通に動いた。構造は貧弱だけれど風を送るという目的は普通に果たした。 「ブーン」 いい風がきた。むなしくなった。量産の力に完敗だった。 娘は自由研究を放棄した。父はやらんでいい研究を勝手にやって死にそうになった。 大人の自由研究は儚くも散った。散って少し反省した。自由研究に口を出したら自由じゃなくなる。自由とは誰にも文句を言わせない自分だけの楽しみと、その行動を指す。勝手にやるまで待たねばならぬ。 色んな事が口で言うのは難しい。 扇風機の残骸を一人静かに片付けた。 |
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