ラブチェアーに至る
まずは2月3日のツイート(ツイッターへの投稿の事)を見て欲しい。



こんな感じで車を買った。11万キロ走ってる日産のバネットを買った。後ろのシートがバタンと畳め、ムダなく荷物が積めた。そこが気に入った。言い方を変えれば他はどうでもよく、
「この車、健康ですか?」
それだけ聞いた。車屋さんはその質問に大きく頷き、エンジンを見せたり試乗をすすめたりした。が、それは断った。それをしたとしても私には何一つ分からなかった。興味がない事に関しては全くの無知で、車屋さんの「健康です」に全幅の信頼を寄せ、サッサと契約して帰った。
嫁は少し怒った。
「荷物も乗るけど私たち家族も乗るんだよ!」
業務車輌っぽい感じが許せないらしい。シートが薄くて尻が痛そうとか、見た目がモロ業者だから恥ずかしいとか色々言ってたけど、嫁も車に興味がないから次第に忘れ、忘れた頃に車が来た。
「こんな感じの車だった?」
「こんな感じだった気がする」
とにかく車を買い換えた。

さて、それで問題になったのが今まで乗ってた車、セレナである。これも4年前、同条件30万で買った。これは嫁が決めた。中古車屋で荷物が乗る業務車輌を物色していたら、物色の隙を狙って嫁が勝手に決めた。そういう事があったので今回は私が先手を打った。うちの家は先手を打った者勝ちという暗黙のルールがあるから油断も隙もない。
で、このセレナを下取りに出そうとしたら「一円にもならない」と言われてしまった。更に地金が安いので諸々の経費を加味するとタダで引き取るのも難しいと言われた。
「だったら廃車してセレナはお客様の宿泊部屋にしよう」という事で、記念写真を撮り、撮った後、壊す段取りに入った。



壊すのは友達を呼んだ。現在はイラストレーターだけど元バイク屋で車も詳しい何屋かよく分からん友達を呼んだ。「セレナの内装をバラバラにしてくれん?」って聞いたら、すぐに来てくれ、泊まって酒呑み、次の日バラして去ってった。



イスもハンドルも床も全部取っ払うとなかなかの広さになった。床をフローリングにして引っ付いて寝れば大人4人ぐらい生活できそうな気がした。
天井にはキャリア用のタップがあった。太陽光パネルを貼ってバッテリーを積めば独立した文明空間ができあがるだろう。
「文明的だけど雨の日は蓄電残量に怯えて暮らす!晴れを祈って文明の始動を待つ!夜はギリギリの文明消費で耐える!地球に平伏す文明生活、教育に打って付け、最高じゃないか!」
客間の予定でスタートしたセレナ分解が何となく子供部屋の雰囲気になってきた。
あわよくばこういうので家族の感じを確かめつつ、近い将来、文明命綱の一つ、電力会社を切れたらいい。
私はちょくちょく小さな理想を嫁に語っていて、遠くない将来、50代後半ぐらいには自由人になりたいと熱望している。芯から自由人になるためには不動産と文明を一つずつ丁寧に剥がしていく作業があって、不動産はタイヤに乗れば動産になるが、文明は心に寄るところが大なので簡単には剥がせない。当たり前の根は心に絡むから「それはムリ!」ってすぐ言っちゃう。だからちっとも変わらない。
「えー電気ガス水道だけは切り離すのムリー」
「不便な生活もたまにはいいよね」
「夜が長くてありがたいよね」
「水や太陽って素晴らしいね」
「生きてるって素晴らしい!私あなたと一緒に自由の旅に出る!」
干支一周ぐらいの期間で私と嫁の当たり前が変わり、自由の船出を迎えないかと期待している。むろん私は無類の寂しがりなので一人は嫌。ゆえ、その事に関してのみ投資を惜しまぬ所存であった。

そういうわけでセレナ部屋を作ると決めた。決めたけれど何をやるにも元手がいるのでまずは働かねばならない。空っぽのセレナを見ちゃうといつまでも働かないので、まずは見ない事にし、急いでバラした友人には悪いが数ヶ月放置する事に決めた。
と、その前に大量のゴミを片付けねばならなかった。バラして分かったが隠し切れないゴミがたくさん出た。クッションのスポンジは燃えるゴミで出した。他に内装パネルのプラスチックゴミ、これは毎日のゴミ出しで少しずつ出そうと決めた。鉄屑は地金屋が無料で持って行くので庭先に放置した。困ったのは中途半端で巨大な座席。セレナは8人乗りだから長イスが一つ、中間席が二つ、他、運転席、助手席、計5点、この保管場所に困った。
「どうしよう?」
捨てるにはカネ取られるし、まぁそれはいいとしても、状態がいいものを捨てるのはモノづくり屋としての矜持が許さぬ。
とりあえず敬意を示そう。私の尻を温めて続けた運手席を自宅のソファーにした。



リクライニングもドリンクホルダーも肘置きも付いて酒を呑むのに打って付け。実に気分がよかった。が、嫁に不評で「どうせ場所を取るなら二人用のソファーがいい」と苦情が出た。よって長イスに土台を付けた。土台を付けながら、
「これはアジャスタで固定するよりタイヤの方がおもしろい」
そういう気分になってタイヤを付けた。





これがビンゴ。ありそでなかったリクライニング&ゴー。セレナのイスだから高級感もあって座り心地抜群。青空見上げて娘と座れば歌いながらバック&ゴー。家族の絆が少しだけ深まった。



更に夫婦で座ればラブ&ゴー。ムダなおしゃべりちらほらと、前に後ろに行ったり来たりのブランコ効果。弾む会話も風が聞こえる沈黙も実に心地よかった。



「なかなかいいじゃん」
久しぶりに嫁からお褒めの言葉を頂いた。が、
「ぜったい自宅に入れないでね」
我家へ持ち込むなと厳命を受けた。
モノ作りの醍醐味は紆余曲折にある。
今回はラブチェアーに至った。
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