第140話 大袈裟な呼び鈴(2018年10月) 5KB

仕事

僕には男の子がいない。だから少年が来ると異常にかまい、その反応をジッと見てしまう。彼らは何が好きなのか。彼らのツボはどこなのか。そこに男の原点があると思うし、そこを目指して突っ走れば男という少し足りない生きものの本質が見える気がする。
仕事柄いろんな人と付き合う。最近ホント思うのが動いてる人は老けない。動かない人は老けるという事で、この「動く」は心も体も指している。
「動いてる最強は誰?」
それ即ち少年で、彼らはひと時たりともジッとせず、嗜好のおもむくまま右に左に心も体も突っ走る。それに比べて大人はどうだ。体より心が疲れて動かない。役所や銀行を見よ。心が動かぬゆえ分かりやすく老けてる。
「少年に学んで若々しくありたい!」
最近62歳の人と同級生って言われショックを受けた僕(41)は少年の生命力をつぶさに追った。
少年はガラクタが好きだ。ウチにはガラクタがある。ガラクタしかない。どんなガラクタが好きなのだろう。色々あるけどやはりウィンウィン鳴って動くのが好きみたい。
僕も好きだ。ウィンウィン鳴るのが好きだから作った。
「思うさま遊んでくれ」
ずっと見てたらスプレー噴射マシンが大人気だった。スプレーが空になってもやり続け、飽きて場を離れた後もコレに戻ってウィンウィン遊んだ。

「なんが楽しいと?」
「ウィーンてなって押すところ」
目から鱗だった。「ウィーン」と「押す」はカレーとハンバーグみたいなもので少年の鉄板らしい。
周りを見た。確かに他の少年も100円ショップのチーンて鳴る呼び鈴を延々押してたり、音が鳴るだけのボタンをウィーンて口で言いながら押したりしてた。
「少年の喜びとは何か、それ即ちウィーンて鳴って押すところじゃないか?」
少年が帰った後すぐさまメカニカル呼び鈴の制作に着手した。
ちなみに言っておくが僕はそれほど暇じゃない。他の仕事や呑み会を後回しにし、むりやり着手した。こういう事は今やらないと永遠にやらない。やらないと後悔する。やっても絶対後悔するけど、やって後悔の方が圧倒的に後悔の質がいいとイチローが言ってた。
「できた!」

凡そ8時間を費やし完成した。
ほぼ備品と端材を使ったのでカネはかかってないと言い聞かせ、その備品が高級品だという事は努めて忘れた。
まずは100円ショップの呼び鈴を鳴らした。

いい音が鳴った。
一回押すと指がグニャって曲がり、一々修正しなきゃならんところも最高だと思った。
「なんこれ!クセになる!」
予想通り男心がくすぐられた。心がはしゃぎ回っているのが分かった。が、大人だから持続力がなかった。30回やったら飽きた。が、それは想定内。だてに41年も生きていない。押して鳴るのは一つだけじゃない。何でも乗るよう設計済みで色んな呼び鈴がイケるはず。
今度は電子ブザーを乗せた。

「くだらねー」
今度は10回で飽きた。
「心よ、もっと騒げ!作るのに丸一日かかってる!せめて100回は遊ばせてくれ!少年に返れ!おれ若返れー!」
結局30分遊んでお蔵入りになった。

ところでつい先日、足の踏み場がなくなって在庫処分市を開催した。少しだけ売れたけど小さいのしか売れず、大きいのはタダで配ったけど家族の反対に遭い、その日のうちに帰ってきた。少しも場所が空かなかった。仕方がないので天草の知り合いに車いっぱいプレゼントした。

その空いた場所に大袈裟な呼び鈴が放り込まれた。せっかく空けたのにすぐ埋まった。僕は何やってんだろうと思った。
「若くありたい」
心のざわめきを追って少年を追い、大して騒がぬ心に落胆しながら次のざわめきを追う。これは不毛な積み木崩し、まさに少年じゃないか。
僕より少年の中年がいるだろか?
これから若返り、やっと五十になった頃、若いって言われるだろか?
とりあえず苦痛じゃないから少年の研究は続ける。問題は保管場所が追いつかない。すぐいっぱいになって在庫処分市を繰り返すに違いない。
引き続き僕は悩む。
僕より子供っぽい大人がどこにいるだろう?
たりない、すぐやる、好き勝手、それが少年の心ならそれだけは自信ある。その僕がなぜ老け顔なのか?
「誰か教えてくれー!」
大袈裟な呼び鈴がチーンと鳴った。