第149話 走れヒロノリ(2020年1月) 19KB

中学時代の同級生が徳島にいる。昨年4月から転勤で行ってて今年3月には離れると言う。それはまずい。必ず遊びに行くと約束していて、他の同級生もみんな知ってる。「あいつ徳島来た?」「来る来る言うて結局来んかった」「あいつ口だけやねー」そうなる事態...

第134話 男と女と帯広のママ(2018年1月) 7KB

居酒屋で呑んでたら隣の若いカップルが喧嘩を始めた。理由は知らない。知らないけれど女が一方的に怒り、男は女が呼吸するタイミングを待って「俺は悪くない」と言った。女は泣いて暴れた。男は「恥ずかしいから店を出よう」と女の手を引いた。が、女は泣いて...

第125話 雨のなかがみ放浪記2(2017年1月) 10KB

恩納村から国道58号線を南へゆく。この道は沖縄の1号線で戦後アメリカが作った。「古い道、琉球の道はなかろうか?」古道好きとしては古い道を歩きたい。幸い雨もやんでいたので国道を離れた。小さな集落で道を聞いた。米寿を優に越えてそうなおじいと会っ...

第123話 雨のなかがみ放浪記1(2016年11月) 12KB

金武町を離れ中頭(なかがみ)地区に入った。前に書いたが沖縄本島は三つの地区に分かれていて、中頭が本島の真ん中にあたる。この日も特に行くところを決めておらず、天気は雨、空を見て行き先を決めようと思った。南の空が明るかった。南へ下った。 カーナ...

第122話 雨のくにがみ放浪記4(2016年10月)8KB

ちょっとだけ雨が上がった。沖縄の晴れは海を渡って来るらしい。 遠くに白い線が見え、その線がダーッと押し寄せ晴れになった。こうなるとタコライスなど捨てて歴史散策をしようという気分になった。古宇利島と屋我地島を歩いて一周するのも悪くない。二つの...

第121話 雨のくにがみ放浪記3(2016年9月)19KB

沖縄本島は今も三つに分かれている。放浪中の「くにがみ」はその一つで国頭と書く。他に中頭(なかがみ)島尻(しまじり)とあって、鎌倉時代から室町時代、沖縄でいう三山時代の国割が凡そ踏襲されている。古琉球の国割である。「沖縄はね、観光客にはいいけ...

第119話 雨のくにがみ放浪記2(2016年7月)16KB

昼をたっぷり過ぎてから名護の街を出た。ひょんな事から名護に長居してしまった。これも旅の醍醐味で、決められたルートをゆく観光ツアーでは醍醐味は得難い。この日は国頭村の奥という集落で旅人の間で名高い奥仙人に会うと決めていた。この奥仙人は噂による...

第118話 雨のくにがみ放浪記1(2016年6月)21KB

沖縄との接点がなかった。全国で唯一行った事ない場所、それが沖縄で、特に知り合いもいなかった。が、今回なんと仕事で沖縄へ行く事になった。沖縄高専でモノづくりの打ち合わせをやるらしい。「一緒に行くか?」「行きます!行かせて下さい!赤字でもやりた...

第114話 島原城下四つの靴(2016年2月) 26KB

次女が「船に乗りたい」と言った。2月10日の朝だった。父は考えた。久しく旅に出ていない。そろそろ子供たちに旅の醍醐味を教えてもいい頃だろう。が、歩くと言うたら付いて来ないに違いない。「父の歩くは危険」それは嫁子の口癖で、何度か一緒に歩いたら...

第103話 冷水峠のオオネジ様(2014年12月) 14KB

2014年はホント赤字が凄かった。特に後半は要らん事ばかりしてて、その極め付けがメーカーフェアというモノづくりの祭典に向けられた。「これ要る?要らんなぁ、作ったとして、これをどこに置くのだろう?」自問自答を繰り返し、分かっているのに名刺交換...

第99話 東京下町散策記3(2014年8月) 17KB

立石は呑み人の聖地という噂を聞いた。が、私は信じない。山本リンダも言ってるように噂を信じちゃいけない。特に飲食の類はメディアと行政がスクラムを組み、「まちおこし」と銘打って色んなものを操作している。「資本と権力に惑わされちゃいかん!市井の真...

第98話 東京下町散策記2(2014年7月) 12KB

京成線は高砂駅で分岐する。柴又へゆくには金町線に乗り換える必要がある。乗り換えが遠かった。改札を抜ける必要があった。同じ社線なのになぜ出なきゃならんのか。分からん。このシステムがよく分からぬが、まさか寅さん好きをカウントしているのではないか...

第97話 東京下町散策記1(2014年6月) 16KB

二年前、東京ラブストーリーにハマり、鈴木保奈美が好きになった。それから保奈美で暮らし、今やっと衣替えの時期を迎えた。「男はつらいよ」である。再放送をたまたま見た。たまたま見たのが第11話「寅次郎忘れな草」リリー初登場の回でまさに大当たり。涙...

第92話 ウミンチュとヤマンチュ(2014年1月) 11KB

野釜島を歩いた。この島は天草の入口・大矢野に属し、立派な橋で上島と繋がっている。地元駐在さんの歓送迎会があり、バスに乗ったら野釜島に連れて来られた。バスを降りて旅館にチェックインし、観光地図を見、ここが野釜島である事を知った。「なぜ、ここに...

第87話 瀋陽雑記3(2013年7月) 21KB

仕事が終わってしまった。終わったというよりやれる事がなくなってしまった。後の作業は部品を待たねばならず、線引きも「これ以降は現地対応」となっていた。技術担当の中国人に残務を説明し、昼食を食い終わると完全無欠の暇人になった。「これから何しまし...

第86話 瀋陽雑記2(2013年6月) 10KB

四つ星ホテルから出張先の工場まで車で40分ほどかかるらしい。ホテル下に迎えの車が来るそうで、午前6時45分、定刻5分前、指定の場所に立った。車は次から次に来た。色んな人をピックアップし、方々へ消えて行った。どれが送迎の車か全く分からなかった...

第85話 瀋陽雑記1(2013年5月) 11KB

その話は数年前からあった。「中国へ飛べ」という話である。最初は心が躍った。知らない街や異文化に強い憧れがある。十年以上旅人をやっているというのはそういう事で、それ以上の理由はない。知らない街で知らない人と美味い酒が呑みたい。が、日本語、それ...

第78話 頼むけん来んで!(2012年9月) 8KB ☆

私は腹が弱い。胃炎、肝炎、腸炎、十二指腸潰瘍、それら軽度の内臓病を十代で味わい尽くし、二十代にはピロリ菌をやっつけ、ついにはサルコイドーシスという難病指定まで頂いた。埼玉の名医曰く腹の弱い人は遺伝の可能性が高いらしく言われて調べて驚いた。実...

第68話 十年~古都大津~(2011年2月) 11KB

私は電車に揺られていた。1リットルのポカリで口を潤し、緊急事態に備えドア脇に立っていた。二日酔いは昼を過ぎても抜けず、視界に広がる靄は依然消えなかった。出すものは全て出したつもりであるが、毛穴からアルコールが噴き出しているらしく、周りに人が...

第67話 十年~北新地~(2011年1月) 11KB

気付けば十年経った。結婚生活である。商業主義に乗っかればキラリと光るダイヤモンドを贈るところだが、嫁は「そんなものいらん」と言う。何もやらんわけにはいかんので、夜な夜なピロートークで聞いたところ「美味いものが食いたい」ときた。なるほど、それ...

第64話 普通に築地松(2010年8月) 13KB

何となく出雲へゆく事になった。前話で書いたが嫁子供が埼玉に帰省しており、それを迎えるため車で埼玉に向かった。8月3日であった。埼玉に着いた私は長時間の運転に疲れていたが、義母も疲れていた。丸二週間も田舎の三人娘と付き合った義母は見た目こそ変...

第34話 デブ、羅漢寺へゆく(2008年8月)16KB

私は太っている。太っているが運動は好きで、自分で言うのも何だが運動神経は良く、モノやボールを使う競技は人並以上にこなす自信がある。基礎体力はない。筋力・持久力、共に人並以下であり、特に後者が覚束ない。が、体力の限界に挑戦するのは好きだ。心と...

第33話 総本山と八幡様(2008年7月)9KB

総本山という格付けがある。私たち庶民にとってはどうでもいい話だが、宗教家にとっては天と地の差を生む大問題の格付けである。宗教というものは総じて本山から派生し各地へ散らばっており、枝葉においては本山の威光をもって活動を行い、金額の多寡は知らぬ...

第22話 雨の高野山(2008年3月) 15KB

ここ数ヶ月、ひどく忙しかった。仕事ばかりをしていたと言えば嘘になるが、連続的にモノづくりの予定が入っており、休んで何かをしたという日が皆無であった。「どこかへ行きたい」ふと漏らしたのが3月18日で、その翌日3月19日には船に乗った。大阪行き...

第1話 水郷の人~田中吉政~(2006年4月) 7KB

(どこかに似ている…)そう思った。柳川の風景である。家に帰り、旅日記の紐を解き、撮り溜めた写真に目を通すと、それは近江八幡の風景であった。二年前の夏の事だが、ふと思い立ち熊本城から江戸城まで歩いた。加藤家や細川家の参勤交代ルートに倣い豊後街...